息子、特別支援クラスに体験入学をする

息子は来年度からいよいよ中学生。サイトで発達障害児を受け入れる特別クラスのある学校を探していると、パリの私立校が一つ見つかった(たった、一つ。探し方が悪いのか・・)ので、さっそく、メールを送ることに。<小学校最終学年にいる10歳の息子は、高機能自閉症と診断され、現在は教育アシスタントがついて、普通クラスに通っています。御校の特別クラスについて情報を送ってもらえますか?>とこれだけでは、芸がないので、<彼は算数が得意で、日仏バイリンガルです>と付け足して、送信する。
 
1週間ほど経っても何も返事がないので、直接その学校に赴くと、受付けで、「願書を取りに来たのですか、それとも出しに来たのですか?」と尋ねられたので、プリントアウトしたメールを見せて、「これを送ったけど、返事がありません」と言うと、すぐ担当者に電話をしてくれ、「特別クラスは、来年、空きがあるるかどうか分からないけど、キャンセル待ちリストに載せることもできるので、まずは願書を出して下さい」と言われる。心理士の診断書なども一緒に送った方がいいかと尋ねると、それは後からでいい、とのこと。なかなか応対が感じよかった。

願書には、余暇活動を記入するずいぶん広い欄があり、幸い、息子は、ダイエットもかねて、複数の習い事をしており、<水泳、マウンテンバイク、工作教室、ギター>と夫が記入。「日本語通信教育も付け足して」と私が言うと、「それは、余暇活動じゃないだろう」。ただ、何が引っ掛かるか分からないので(願書を目にした教師が親日家なんてこともあるかも、って就活じゃないけど)、「取りあえず、書いて」と頼む。
成績表は、総合評価をコピーして同封する。<授業に集中せず、課題をやらず、アシスタントがついていないと、鉛筆すら持たない。にも関わらず、テストは好成績でした>と、息子の問題を簡潔に説明している。息子は知的障害ではなく、情緒障害という分かりにくい障害を抱えているのだ。

まもなく、学校から電話があり、「1週間の体験入学に来ませんか?まずは息子さんにこのクラスがあうかどうか、見てみましょう」と、提案される。親切だ。しかも、給食は一般生徒と食べるが、体験入学なので払わなくていい、と言ってくれる、何て太っ腹な学校!

現在、息子の通っている小学校にて、一学期に一回、息子を囲んで、教育会議なるものが開かれ、担任、校長、療育センターのスタッフ、学校心理士、教育アシスタント、あと県の教育担当者なるお役人マダムが集まる(むろん、夫と私も参加)。そこで、さっそく特別クラスの話をしたところ、お役人マダムが、「そんなもの、必要ありません。成績も悪くないんだし、アシスタントの付く時間を増やすから、普通クラスに通えばいいでしょう」!今、現在、息子には週10時間、アシスタントが付いているが、中学になったらそれを20時間に増やすという。
息子はコミュニケーション障害があり、友達ができない。今は、週2回、療育センターに通い、グループ療育を受けているが、中学になると、心理士との一対一のカウンセリングのみになる。他の生徒たちと接することなく、アシスタントに付き添われて、授業だけ受ける、そんな学校生活が息子にとっていいのか?また、暗記や計算は得意であるが、論理的思考ができず、自分の考えを言葉できちんと表現できず、イマジネーション能力も劣っている息子が、中学の授業についていけるのだろうか?いじめの問題も深刻になるだろうし、息子は格好のいじめの対象になるのでは?
と、不安は尽きず、息子と接することのほとんどないお役人の意見に従うつもりもなく、第一、特別クラスが息子にあうかどうか、試してみなければ分からないし、せっかく学校側から体験入学を提案されたのだから、もちろん、行くことにした。
 
体験入学先はカトリック系の私立校で、Tシャツ禁止(ポロシャツはOK)、運動靴禁止である。1週間といっても水曜は休みなので、ポロシャツが4枚あることを確認し(ちょうど4枚しか持っていなかった。水曜に洗えばいいんだけど)、皮靴を買いに行く(さいわいバーゲン中)。体験入学だから大目に見てもらえるかもしれないが、靴のことでいじめられたら?なんて、ふと心配になる。

 学校までは電車と地下鉄を使い、ドアツードアで1時間ほど。初日は、夫も一緒に行き、先生方に挨拶をする。息子は不安がる様子もなく、すんなり先生の後について教室に入っていく。中学クラスと聞いていたが、高校生と思しき大きな子もいるし、ダウン症の子が二人ほどいたが、他の生徒たちは、見かけだけではどのような障害をもっているか分からない。
 初日なので、何かあったらすぐに迎えに行けるように、と学校の近くで映画を二本見る予定を立て、行きつけの美容院もすぐそばなので、予約を入れておいた。すると、夫も「今日は、午後の会議だけ出ればいいから、ルーブル美術館に行く。こんな朝早くからパリに来ることなんて滅多にないから」とうきうきしているので、ネクタイ締めてルーブルに行くのかよ、と嫌みの一つも言いたくなった。
 美容院が終わったのが下校時刻ぎりぎりで、慌てて迎え行くと、開口一番、息子は「楽しかった!」。本当に会議だけ出て、退社したらしい夫も迎えに来て、3人で近くのカフェに行って、ケーキを食べながら、息子に話を聞く。給食がおいしかったこと。特別クラスの男の子二人と一緒に給食を食べ、特別クラスに一人、日仏ハーフの子がいる、と教えてもらったこと。その後、休み時間は、他の生徒(普通クラスの)がサッカーやラグビーをしているのを特別クラスの子と一緒に見ていたこと、などなど。地元の小学校では、いつも一人で、「誰もオレと話をしてくれない」と言っている息子が、初日から、ちゃんと他の子と交わっている。障害がある者同士、波長が合うのかも。初めての皮靴が痛くて、足を引きずっていたが、まあ、これも慣れるだろう。

2日目は、朝の電車が混んでいて、席が空いておらず、パリまでずっと立つはめに。不機嫌になった息子の気を紛らわせようと、電車の中で、退屈しないように持って来た『かいけつゾロリのおやじギャグ200連発』を渡すと、「ママ、読んで」!満員電車の中で、「このイス、いいっすね」なんて、音読をさせられる。幸い周りはフランス人だけど。
学校に着くと息子は上機嫌で教室に入って行き、私は先生たちに息子が学校を気に入っている旨を伝えた。その後、近くのスタバに行って、企画書の下書きを一つ仕上げる(ノートパソコンを持ち歩くのは重いし面倒なので、レポート用紙に手書き)。それから、早めに和太鼓教室に行き、稽古の後は買い物をして、息子を迎えに行くと、昨日とはうって変わってしかめ面をしている。そして、帰り際、先生に向かって、「二度と来ません!」と叫ぶ。またまた、カフェに連れて行き、ケーキを食べさせながら(放課後のケーキを習慣化してはいけないと思いつつ、自分も甘いものが食べたくて)、何があったのかを問いただす。給食がまずかった、理科の授業がつまらなかった、他の子に叩かれた(!)という。「どうして叩かれたの?」と尋ねると、「オレがパリに住んでいないから」。「じゃ、先生に、その話をしてもいい?」。「今のはウソ」・・やっぱり。
 
水曜日は、いつもどおり地元の水泳教室と木工教室に行き、夕方に「明日も、パリの学校に行く?」と確認すると、不機嫌な顔ながらも、「行くよ!」。
木工教室
(木工教室で、糸のこ盤を使う息子)

木曜の朝は、息子が黙って教室に入って行った後、先生に「火曜の理科の授業がつまらなかったそうです」と話すと、「理科の授業なんてしていませんよ」。・・これもウソであったか。どうも大嫌いな作文の授業があって、それが不機嫌の理由だったようだ。映画を一本見た後、知人と待ち合わせて、ランチ。彼女は最近、引っ越したばかりで、その新居にお邪魔して、コーヒーをごちそうになり、おしゃべり。彼女には高校生の息子がいて、偶然にもうちの子の体験入学先に中学の時に願書を出し(普通クラスに)受かったのだが、校則が厳しく、髪型まで規制されることを知ったご主人が、他の中学に入れることを決めたのだという。もし、彼がここに通っていれば、学校の様子をもう少し詳しく知ることができたのに、・・残念。
夕方、迎えに行くと、機嫌の直ったらしい息子が、「今日の給食はおいしかった!」他には、算数の授業が図形で、難しかったという。

最終日は、夫が会社に行く前に息子を学校に送り届け、迎えは私が行くことに。その前に、日本の療育センターで働いた経験のある知人とカフェで待ち合わせ、『自閉症ガイドブック 学齢期編』を借り、近況報告を交えたおしゃべり。息子を迎えに行くと、この日は水泳の授業があったおかげで、たいへんご機嫌だった。地元の学校はプールがないので、バスで少し離れたところにあるプールまで行かなければならないが、ここは学校内にプールがあることが気に入ったらしい。算数の授業で数独をした、というので、驚いたら、1~4のみの子ども向けの数独だったという。そんなものがあるとは知らなかった。
先生からは、「何も問題なかったですよ」と言われ、3月中に、この1週間の評価をまとめ、連絡してくれるという。とりあえずは、無事に体験入学が終わったのでほっとする。

週末に、息子に体験入学について感想文を書くように言ったところ、4日間の給食メニューを羅列し、その後に「月曜と木曜はおいしかったけど、火曜と金曜はまずかったです。プールが楽しかったです。」と書き、最後に「この学校に行きたいです。」とまとめらしきものが。
その後、夫がフランス語で感想文を書かせたところ、何のことはない、全く同じこと(給食メニューの羅列とプールのこと)をフランス語で書き直しただけであった。

月曜からは、今までどおり、地元の学校に登校。朝、夫から「担任から体験入学のことを聞かれたら、給食以外の話もするんだぞ」と注意されていたが、結局は、担任は何も尋ねなかったという。クラスメイトに「病気か?」と聞かれたと言うので、「剣ちゃんが、病気で休んでいたと思ったのかな?」と尋ねると、「パリの学校まで行くなんて、病気か!って」・・確かに徒歩圏の学校に通っている子どもからみれば、毎日片道1時間近くかけて通学するなんて、正気の沙汰じゃない、と思われるか。

体験入学先からの連絡を待ちつつ、息子にとってどういう進路が一番いいのか、悩む日々。まあ、悩んでも結局は落ち着くところに落ち着くんだろうけど。
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江草由香

Author:江草由香
編集者・ライター。立教大学仏文科卒。映画理論を学ぶために96年に渡仏し、パリ第一大学映画学科に登録。PRESSE FEMININE JAPONAISEを設立し、99年にパリ発情報誌『ビズ』を創刊。現在、日本の雑誌やWebにフランスの情報記事、コラムなどを寄稿しながら、日仏バイリンガルサイト『ビズ・ジャポン』の編集長を務める。著書は芝山由美のペンネームで『夢は待ってくれるー女32才厄年 フランスに渡る』。

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