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出会えて幸せ!な、本。クッツェーの『マイケルK』

日本に帰国した時、学生時代によく遊びに行った、マダムシルク(カフェバーとでも言いましょうか。文学、演劇、美術サークルなどの学生がたむろし、夜はお酒も出る店。私はここでバイトをしていた時も)に、文学サークルで仲よくしていた後輩ミワちゃんと、その同学年のタケちゃん、私と同学年だったI氏で集まり、スパゲティを食べながらおしゃべりをした。
ふと、I氏が、「ここ3年くらいの間に読んだ本の中で一番面白かったのは、クッツェーの『マイケルK』だな」、とのたまう。本好きのI氏が言うなら、さぞかし面白いのだろうな、と、みんなカバンからメモ帳を取り出し(アナログな人ばかり)、メモメモする。ジョン・マクスウェル・クッツェー。南アフリカ出身の文学者で小説家。ノーベル文学賞を受賞している。ちなみに、私はそれまで、彼の本を一冊も読んだことがなかった。
 それは、フランスに帰る前々日の夜だったので、翌日、つまり日本滞在最終日に、池袋東武の旭屋書店に行くも、置いておらず。池袋東口のブックオフにも行ってみるが、見つからず。最後のあがきで成田空港の書店を見るも、ない・・当然か。

 手に入らないと分かると、ますます読みたくなるのが、人間の性で、次回帰国まで待つか、パリに来る予定の知人に頼もうか、なんて考えていたら、まもなく、ミワちゃんが、個人ブログ“メンデルスゾーンのはなうた”で、「『マイケルK』を読み終えた」と書いているではないか。く、くっつぇ~!(くっそぉ~!のつもり)。
さらに、ミワちゃんは、クッツェーの他の作品、『恥辱』、『動物のいのち』と読み進め、「クッツェーは癖になる」、とまで書いているし。・・ちなみに聡明なミワちゃんは、クッツェーはくっつぇになる、なんてことは間違っても書かない。
 日本語の本が簡単に手に入らない、異国暮らしの悲しさよ。こうなったら、フランス語で読んでやる~、と近所の本屋に行ったら、クッツェーがあった、3冊も!しかし、『マイケルK』は置いておらず、試しに『エリザベス・コステロ』を購入。
 エリザベス・コステロは、主人公であるオーストラリア在住の67歳の著名な女流作家の名前。文学賞を受賞して、その授賞式に出席し、講演を行うためにペンシルバニアにやって来る。長旅の疲れ、自分の老いを同行の息子に隠さない・・、なんかアンニュイな雰囲気がいい感じ!映画化するなら、シャルロット・ランプリングが適役だな、そういや、フランソワ・オゾンの『スイミング・プールで、彼女は小説家の役をやってたし、なんてわくわくしながら読み始めたのだけれど・・。
彼女の講演の中で次から次へと出てくる、文学作品の引用・・、ジョイスの『ユリシーズ』?タイトルは知ってるけど、読んでまへん。カフカの人間の言葉をはなす猿、って??なんだか、読者を選んじょるな、この本、と(自分の無教養を棚に上げ)、面白くなくなって、投げ出す。そもそもフランス語で読むのが面倒だし。

さて、日本で会った時、ミワちゃんに拙著『夢は待ってくれる』をプレゼントしようと持参したら、なんとすでに買ってくれていて(日本でまだ売ってたのね・・)、フランスに持って帰るのもアホくさいので、ミワちゃんに悪いな、と思いつつも、その場でタケちゃんにあげた。その時に、ミワちゃんが、続きが読みたい、と言ってくれたので、続編が載っている、フリーペーパーの『ビズ・ファミーユBisouFamille』と『ビズ・ビアンエートルBisouBien-etre』合わせて30冊を送る。すると、ミワちゃんが、お返しに、クッツェーの『マイケルK』と『恥辱』(日本語版、もちろん)をフランスまで送ってくれたのだ!う、うれぴー。

それで、『マイケルK』であるが、パリに向かう電車の中で読み始めたのだけれど、文字を追う自分の視線の動きのとろさ(オツムの方か?)にいらいらするほど、引き込まれ、映画館の中でも場内が暗くなるまで読み続け、映画が始まっても、『マイケルK』の続きが気になり、映画など見ずに、本を読み続ければよかったと後悔(じゃ、さっさと映画館を出ろよ、って話だが)。ギャラリーの店番中も、帰りの電車でも読みっぱなし、夜はベッドで眠気と闘いながら読み続け、でも、こんな半分眠ったような状態でこの傑作を読むのはもったいない、と自分に言い聞かせ、中断。翌朝、夫と子供を送り出すや、再び、ページを繰り始め、まもなく読了。
なぜ、この年齢になるまで、この本に出会わなかったのだろう、いやいや死ぬ前に『マイケルK』を読めたことを神に感謝しなければ(謙虚な私)!
と、ここまで言ったら、あらすじを書かないとね。

―アパルトヘイト時代の南アフリカを舞台に、口唇裂を持つ庭師のマイケルが、内戦で疲弊した都市ケープタウンから、母親が少女期を過ごした思い出の地、プリンスアルバートまで、病んだ母親を手作りの車椅子に乗せて旅に出るが・・―(wikiコピペ)

様々なかたちの暴力に遭遇し、それに抵抗して、自由を渇望するマイケルを通じて、人間の本質を描いた名作、というのが一般的な解釈か。
しかし、私にとっては、希望の意味を考えさせられる小説だったのだ。つまり、
肉体は生き続けたがるものであり、精神は生きることに意味づけをしたがる。希望を見出すとは、肉体的そして精神的によりよい状態を、より長く保ち続ける可能性を見出すことで、何をもって“よりよい”とするのかは、一人一人の価値観で判断されるものなのではないか。そして、希望とは、突然どこからか湧き出るものではなく、人の知恵が導き出すものなのだろう。
この小説の最後のパラグラフは、映像的で、希望を象徴するそのイメージは、タルコフスキー作品の最高峰『ノスタルジア』の、温泉を渡るロウソクの火のイメージに匹敵する美しさ!

ぜひ、この素晴らしい作品『マイケルK』を読んでくっつぇ~。


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No title

江草さんほどダジャレと結びつかな人は珍しい(知的だから)と学生時代からずっと思っていました。初めてダジャレを言うところを目撃致しましたがとってもお上手!わ、私としたことが日本にいながら何故今まで「くっつぇ~」ダジャレを思いつかなかったのか^^;異国の地にいる先輩のダジャレ・センスにはっとさせられ(笑)いや、それにしても最後の「希望とは突然どこからか湧き出るものではなく、人の知恵が導き出すものなのだろう。」って素晴らしい〆ですね。タルコフスキーのノスタルジアを重ねるところなども含めて。さすが江草さん!文研の先輩方からはいつも知的な刺激を受け、越えられないものであります^^今でもそれは変わらないと思ったあの日のマダムシルクでした。I氏の読了した本のリストってないのでしょうか。あれば是非に公開してほしいなぁ~。間違いなくタケちゃんも希望するかと(笑)

知的なだじゃれをめざして

知的なだじゃれを目指しております(どこが?)。
うちの息子は小さい頃からほとんどしゃべらないにもかかわらず、4才の頃、フランス語と日本語を混ぜただじゃれを一人で連発して、けらけら笑っていました。

そうそう、I氏は、毎日の長い通勤時間の間、ずっと本読んでいるらしいから、読書量はそうとうなものかと。何年も前、これまたI氏ご推薦で、読んだのが、森巣博のエッセイ『無協会家族』。うちのアスペ君が、算数だけ異常に成績がいいことを話したら、この本を教えてくれて、すんごく面白かったです。彼も、読書日記ブログとかつければいいのにね。あんまりそういうタイプじゃないか。

たけです

江草さん。文研のたけです。その節は江草さんの素敵なご本をプレゼントしていただき、ありがとうございました。江草さんの何事にもポジティブな姿勢がとても爽やかで気持ちの良いご著書でした。
さて、私もマイケルK、読んでいるのですが、まだ真ん中くらいです。ここまで来るのに一行一行、読みながら心が痛く辛くなるものがあります。目を背けたくなる様な出口のない現実が続いていて。
良くここまで向き合って書き込むなあ、すごいパワーだなぁと。
日本ではちょうど、マンデラさんの訃報が大きく取り上げられています。
クリスマスが近づいていますね。
どうぞ、お元気で!

Re: たけです

亀レス失礼。そうなの。目をそむけたくなるんだけど、読まずにはいられないという。でも、よい、作品でしょう。

> 江草さん。文研のたけです。その節は江草さんの素敵なご本をプレゼントしていただき、ありがとうございました。江草さんの何事にもポジティブな姿勢がとても爽やかで気持ちの良いご著書でした。
> さて、私もマイケルK、読んでいるのですが、まだ真ん中くらいです。ここまで来るのに一行一行、読みながら心が痛く辛くなるものがあります。目を背けたくなる様な出口のない現実が続いていて。
> 良くここまで向き合って書き込むなあ、すごいパワーだなぁと。
> 日本ではちょうど、マンデラさんの訃報が大きく取り上げられています。
> クリスマスが近づいていますね。
> どうぞ、お元気で!

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プロフィール

江草由香

Author:江草由香
編集者・ライター・コーディネーター。
96年に渡仏し、99年から10年間パリ発日本語情報誌『Bisouビズ』の編集長を務め、同時に日本の雑誌やWebに情報記事、コラムなどを寄稿。
2010年に日仏バイリンガルサイト『BisouJaponビズ・ジャポン』を立ち上げ、ジャパン・エキスポなどパリで行われる見本市で、日本企業や日本人クリエーターの出展をプロデュース、展示会の企画コーディネートの仕事を始める。
2018年に22年間のパリ滞在にピリオドを打ち、日本に帰国。

『BisouFranceビズ・フランス』
https://www.bisoufrance.com/

個人ブログ『湘南二宮時々パリ』
http://ninomiyaparis.blog.fc2.com/

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