昨年、11月13日のパリ同時多発テロ直後に書いて、UPし損なったブログ

パリでテロが起こった日の翌朝、義母からの電話で目が覚めた。正確に言えば、寝室隣の書斎にある電話の留守電メッセージに義母が怒鳴っている声で、起こされた。また、「なんで、先週は一度も電話をして来なかったの!」なんてお怒りか、と一階リビングに降りたところ、夫が携帯電話に向かって、「オレだって、今、テレビをつけて初めて知ったんだよ!」と大きな声で話している(義母は耳が遠い)。パリでテロが起きて、120人もの人が亡くなった(その時点で)という。大ごとである。自分が心配性なのを知っているのに、どうして、無事だと知らせる電話をかけてこないのか、と義母は怒っていたらしい。

朝食を取りながら、ずっとテレビニュースを見る。電車やメトロは動いているが、公共施設も美術館も閉鎖、商店も閉めるところが多いらしい。街頭インタビューでは、いつも通りに過ごして、フランス人はテロなどを恐れていないことをテロリストに向かって示すべき」という意見がほとんど。テロが起こって24時間も立たないのに、街中を歩いている勇敢な人たちなので、こんな発言も出るのだろうが、パリ市民一般はどう感じているのだろう。

パソコンを立ち上げたら、日本の友人知人から安否を気遣ってくれるメールが届いていて、びっくり。私が事件のことなど知らず、ぐーぐー眠っていた時間に書かれたメールもあったし。
テロリストの一部はまだ逃走中と聞き、朝のジョギングをするかどうか、ためらっていると、「木刀を持って走れば?」と夫が言う。相手は飛び道具を持っているわけだし、こんな状況下では、不審者と思われ、警察に通報されるかも。インタビューされた人々を見習って、いつも通りに走ろう、と決める。郊外の住宅街を走るのだが、心なしか、人通りが少ない。公園も週末のこの時間は、ペタンクに興じる人が数人いるのだが、この朝は、初老のムッシューが一人で寂しそうに(見えた)、鉄の球を投げていた。仲間はテロを恐れて、出て来ない?

戻って、メールをチェックすると、フィンランド在住のライター仲間、靴ぽんからメールがあって、彼女がよく記事を書いているニュースサイトの日本版ハフィントンポストに、パリの状況を在住者の視点で書かないか?と提案された。うーん、テロのせいで気分は落ち込んじゃってるし(盛り上がっている人はいないだろうけど)、10月まで会社勤めをしていて、そこでは編集に専念して、記事らしきものはしばらく書いていないし、そもそも、政治、社会、軍事(の範疇か?テロは)問題に疎いし、とメールを返したら、「専門家の分析みたいなものは他の人が書くだろうから、その落ち込む気持ちがどこから来るか、周りの人の反応などを書けば?」と勧められ、なるほど、それにハフィントンポストに記事が書けるなんて、またとないチャンスだし、と引き受けることに。

実は、その翌週、日本から二人、知人が来ることになっていた。一人は、子どもの本の出版社の社長でジャーナリストの松井紀美子さん。パリの公立図書館と児童本専門店の取材に来るので、私も一緒に付いて回る(単なる好奇心から。彼女は英語ぺらぺらなので、通訳は必要ないし)予定だったのだ。もう一人は、広島県熊野産の筆を使ってフェイシャル・トリートメントをするリンパドレナージュ・セラピストの小笠原美穂さん。彼女の筆リンパ実演をお手伝いすることになっていた。

松井さんは、あっさり「飛行機は飛んでるから、行く」と連絡を寄こす。

小笠原さんからは「心情としてはこういう時だからこそ、通常と同じく予定通り計画を進めたいけど、それによってパリの方々の気分を害したり、(トリートメントを受けるために)お出かけ頂く事によって危険にさらしてしまうようであれば本意ではない」と男気を感じさせる(女性だけど)メールが来る。来てくれれば歓迎、でも判断は任せる、と返事をすると、「行きます」と即座に連絡が来た。

テロ翌日の土曜日に、雑用をできるだけ済ませて、日曜から、ハフィントン・ポストの記事の取材・執筆に集中する。日曜の朝は、天気がよかったことも手伝ってか、ジョギング中に、犬の散歩をする人や、数人のジョガーともすれ違う。公園では3人のムッシューが楽しそうにペタンクをしていたし。ハフィントンの記事は、久々の長文記事で、しかも締め切りタイトで、テーマが重いので四苦八苦したが、何とか月曜の夜中に書き上げ、東京の編集部に送る。

火曜日に松井さんが到着するが、宿泊先が、郊外線でいえば、自爆テロのあったスタジアムの隣駅、“北駅”のすぐそばのホテル。多くの死者を出したコンサート会場バタクランまでも歩ける距離なので、一緒にキャンドルを捧げに行くことに。
途中、レピュブリック広場が近づくと、たくさんのテントが見えたので、何か、と思ったら、テレビクルーの待機用テント。フランスの局だけではなく、各国から来ている。事が起こるのを待ち構えているような様子にちょっと、不愉快な気分に。
雨が降り始める中、バタクランに近づくと、ひどい耳鳴りが始まり、両足の足先がツッたような状態になる。劇場前の歩道には、たくさんの人が傘を差しながら花やキャンドルを供えに来ている。抱き合って泣いている若者もいて、「共通の友人がここで亡くなったんだろうなぁ」なんて思いながら、私たちもキャンドルに火をつけて(雨でなかなか火が付かず、「今時、マッチ使ってんの?」と松井さんに呆れられる)、手を合わせたとたんに、すっと耳鳴りと足の痛みが消えた。

「エッフェル塔がトリコロールにライトアップされるんだって」と地元民の私も知らない情報をつかんだ松井さんと、じゃ、トロカデロに行こう、と地下鉄に乗る。夕暮れ時のシャイヨ宮広場に着くとジャーナリストっぽい、大きなビデオカメラを持っているムッシューがいたので、「ライトアップは何時からですか?」と尋ねると、「9時から」。こんな時だし、さすがに夜9時まで、パリに残れないけど、とりあえず、お茶でもしよう、とトロカデロ広場を囲むカフェの一つに入り、エッフェル塔(真っ暗)が見える窓ガラスに囲まれたテラス席に陣取る。念のため、ギャルソンに「ライトアップは何時から?」と聞くと、日本語で「7時(しちじ)」と答えてくれる。うーん、7と9を間違えていないだろうな?剣道クラブのフランス人たちも日本語の数字をよく混同し、日本剣道形の四本目を「よっぽんめ」などと発音したりするし。
7時までは待ってみよう、と暗いエッフェル塔を見ながら、白ワイン(茶ではなく)をちびちびと飲んで、松井さんとおしゃべり。襲撃されたレストランでは、テラス席にいた人たちが多く犠牲になった。にも関わらず、このカフェのテラス席は、ほぼ満杯。「テロに屈せず、今までどおりに過ごす」って大方のフランス人のスタンスなんだ、と改めて感心。
7時になるとエッフェル塔がトリコロールにライトアップされる。ギャルソン(の日本語)は正しかったのだ。慌ててシャイヨ宮広場に戻り、デジタルカメラをエッフェル塔に向ける。周りにも同じことをしている観光客らしき人々がたくさん。テロ直後で観光客が減っているに違いないが、夜、あまり出歩かないので、普段より人が多いのか少ないのかは、分からない。
家に戻って、写真を確かめたら、なんと真ん中の白い部分が消えていて、二色旗。松井さんがFBにUPしていた、写真はちゃんと三色旗。途中で、故障のため、二色旗になったと後で聞くが、一緒にいたのに、なぜ、私のエッフェル塔が二色なのか、謎だ。

テロエッフェル塔
<二色旗のエッフェル塔>

水曜は、パリ市立推理小説専門図書館の取材。館長は初老のマダムで、インタビューの後に、自ら閉架書庫まで案内してくれる。推理小説の類は、子どもの頃、ポプラ社の江戸川乱歩・少年探偵シリーズや快盗ルパル全集、名探偵ホームズ全集を読み耽ったが、中学生になってからは、アガサ・クリスティを数冊読んだ程度で、あまり縁(関心?)がない。フランスの推理小説と言って、思い浮かぶのはファントマくらいで、ルイ・フイヤード監督版のDVDを持っているが、本は読んでいない。ただ、この図書館取材のおかげで、怪人二十面相は、和製ファントマなのだということに突然、気づく(どうでもいい“気づき”かも)。

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<学級文庫に置いてあったなぁ>


<1913年制作の無声映画 『ファントマ』>

それからサンジェルマン地区にある、子どもの本の専門書店に飛び込み取材。ここはお客がいっぱいだったけど、周りのブティックは閑散としている。やはり、観光客向けの店が、テロの影響を受けているのだ、と思いながら、歩いていると、それでも、日本人観光客らしき人たちともすれ違う。テロの後、日本の旅行会社のパリ観光ツアーが相次いでキャンセルになったと聞いたから、テロ前にパリに入った人という可能性も。

木曜の午前中は、パリに到着した筆リンパドレナージュの小笠原さんと彼女が土曜日に実演を行うギャラリーで軽く打合せ。「飛行機はガラガラで、3席使って、寝て来れちゃいました」と小笠原さん。無理もない。

午後は、松井さんと14区の児童書専門店に飛び込み取材をした後、前日の推理小説専門図書館に戻る。というのも、イラストレーター Miles Hyman(推理小説本や有名雑誌の表紙イラストなんかも描く)の作品展のオープニングがこの夕方にあったのだが、松井さんが彼の作品を気に入り、日本で展示会を開くことを視野に入れ、作家本人と名刺交換をしたい、と言ったのだ。で、会ってみたら、松井さん好みだったらしく、ツーショットを撮ってあげたら、もう幸せそうな顔で(松井さんの方がね)、「作品を見た時から、きっといい男に違いないと思っていたのよ」・・本当か?


< Miles Hymanはこんなイラストを描く人>

その夜は、ノルマンディ地方に住む友人、智子さんの彼氏、写真家エマニュエル・オルティズの個展に行く。エマニュエルが、1991年から9年間かけて撮り続けたユーゴスラビア紛争の写真を展示するのだが、ギャラリーのサイト、FBにメインで載せてあったのが、白い布をかぶせた遺体、という、この時期にこれは・・、という作品であった。
しかも、会場が、パリ東部郊外のモントルイユ。テロリストが車を乗り捨てたと報道されていた地区だ。智子さんには会いたかったが、松井さんも来ているし、モントルイユはちょっと遠いし、と行くかどうか悩んでいたのだが、逆に、こんな状況で来場者が少なかったら、智子さんたちもがっかりするだろう、と共通のジャーナリスト仲間と連絡をとりあって、行くことに。テロリストが、隠れ家の近くに車を乗り捨てるとも思えないしね。
松井さんも写真展に興味を持って、一緒に行ってくれたのがありがたかった、というのも、会場は、地下鉄駅からけっこう離れて、人通りの少ない道を歩かなければならなかったのだ。
で、そのギャラリーは、自動車修理工場のような建物の外階段を上ったところにあった。「テロリストのアジトみたい」、と言ったら、智子さんが、「テロリストの車が乗り捨てられたのは、このすぐそばだったんだって」。
しかし、それを知ってだか、知らぬがほとけでか、老若男女たくさんの人が集まり(犬もいた)、写真展のオープニングは、大盛況であった。

テロエマニュエル
<写真展のフライヤー>

ハフィントンポストに書いた記事は、思った以上の反響があり、同業者、つまり編集者やライターからもお褒めの言葉をいただいた。文字量多めの記事を短時間で書いたので、後から読み返すと文章がちょっと雑な気がするのだが。しかし、書いたもの褒められるのが、一番うれしいので、やっぱり私は物書きが向いているのだわ、なんて思ったり。

テロ発生から一週間が経ち、21日土曜は小笠原さんの広島熊野産の筆を使った顔リンパドレナージュの実演の日。寒くて天気が悪く、それにもちろんテロの影響があって、思ったほど人が来なかった。ポジティブ思考の小笠原さんは、「昨日、ルーブル美術館に行ったら、並ばずに入れて、モナリザも特等席で見れちゃいました!」。勇気をもってこんな時期にパリに来てくれたんだから、“いい思い”をしてもらわないと。こうなったら、デパートやブティックも、勇敢な旅行者のための特別感謝セールをぜひ、開いてほしい。


この文章を書いてから1年経ったが、相変わらず、日本人観光客は減ったままらしい。フランスのニュースでも、「特に日本人観光客が大幅に減り・・」というフレーズを何度か耳にしたし。

旅行者向けテロ対策グッズなんてものはないのかなぁ、と日本のネットショッピングサイトをチェックしてみる。テロ対策対ライフル用防弾ベストも売っているが、東京パリ往復空港券が買えちゃう値段だし、総重量5キロって、これじゃ肩や腰を痛めないか?
Risk Control Corp, TACTICALテロ対策 対ライフル用防弾ベスト(プレート前後付き)

さらに、ぐぐっていたら、こんなものが。


スリ除けくらいにしかならないか。
そういえば、昔、日本で仏語会話教室に通っていた時、フランス人講師が「フランスでは消防士はみんなに好かれていますが、警官は嫌われています」と言ったのをよく覚えている。実際に住んでみて、うーん、当たらずと雖も遠からずか。こんなもの着て、パリの街を歩いたら、逆に反感を買ってしまうかしら。

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No title

ブログの週一更新(驚)楽しみです☆
フランスのテロから一年。当時、日本で知りうる情報は、やはり、どうしてもジャーナリスト、報道目線からのもの中心で、実際「そこ」に住む市民の言葉というのは、なかなか触れることができませんでした。そんななか、江草さんが投稿された、ハフィントンポストの記事は、「そこ」住んでいる一般市民の感覚と目線で書かれた貴重なルポであり、読んだ時、ある種の「安堵」を覚えたことが思い出されます。(来年はフランスも選挙だそうですね。アメリカの選挙がああなった今、どういう結果になるのか、関心あります。)
江戸川乱歩、懐かしいですね。うちにも12冊あります。表紙もさることながら、題名に「地獄の~」がつくもの多く、オドロオドロシイ(笑)まさに小学生の学級文庫に相応しい。私は乱歩のあと、横溝正史にいきました^^

No title

miwaさま

あの時、日本の報道は、まるでパリが戦場と化しているかのような論調のものが多かったらしいですからねぇ。

そう、来年はいよいよ大統領選挙です、予想外のことが起きなければいいですけどね。

横溝正史は、角川映画で火がついた頃?

No title

どちらかといえば、TV版(古谷一行主演)毎週金曜夜放映のほうですね。今はハセキヨ主演でNHKBS「獄門島」やってます。ハセキヨの気の利いた顔、結構好きです(笑)

ビズ・ジャポン・ART、復活第2号、おめでとうございます\(^o^)/
表紙のこけしちゃんたち、はるばる日本からフランスに旅してきた雰囲気が醸し出されていて、とてもかわいい。フランスの風景ともあいますね。

No title

ハセキョ❌➡ハセヒロ◎

No title

映画版は石坂浩二でしたっけ? スケキヨと混じっちゃったんだね。

そうなんです、妙にマッチするの、こけしとパリの風景。

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プロフィール

江草由香

Author:江草由香
編集者・ライター。立教大学仏文科卒。映画理論を学ぶために96年に渡仏し、パリ第一大学映画学科に登録。PRESSE FEMININE JAPONAISEを設立し、99年にパリ発情報誌『ビズ』を創刊。現在、日本の雑誌やWebにフランスの情報記事、コラムなどを寄稿しながら、日仏バイリンガルサイト『ビズ・ジャポン』の編集長を務める。著書は芝山由美のペンネームで『夢は待ってくれるー女32才厄年 フランスに渡る』。

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